発想力

 

独創を生む発想



西澤潤一の発明は先進過ぎて日本の学界には受け入れられず、外国で先に認められてきた。
PINダイオード(昭和25年)、半導体レーザー(昭和32年)、グラスファイバー(昭和39年)、アバランシェダイオード(昭和28年)などである。
外国の定説、権威を重視する日本の学界では、異端視され排斥されたのである。
当時23歳の東北大学院の特別研究生であった西澤は、半導体の研究をはじめたが、何度実験しても、当時のショットキーの整流拡散理論やダイオード理論に当てはまらない。
従来の理論に対し疑問が生じたと言う。ここで、何か参考になる論文はないかと探した。
ドイツのハルトマンの古い論文に「薄い絶縁物を電極針と半導体で挟むと半導体の特性がよくなる」と出ていた。
しかし、なぜ、電子が絶縁物に入りこむのか?
思い当たったのが、昭和7年にソ連のダビドフが発表していた「電子注入の理論」であった。ここで考えたのが、電子の少ないP型半導体の代わりに、絶縁物を置いても電子注入理論が当てはまるのではないか?、絶縁物でも電子が存在するのだから、N型半導体から電子が入り込むこともありうるはずだ。
電子が入り込む場合の抵抗比はP型の場合よりずっと大きく、電極に加えた電圧によって生ずる電界エネルギーは大きくなって、絶縁物に飛び込むのではないか?
この仮説によってさらに実験が繰り返された。
しかし、この仮説にたどり着いたころ、アメリカのショックレーが「PN接合理論」
として発表したのである。そのショックは大きかった。
そこで、論文をよんで、考えはじめた。
ショックレーのPN接合理論では逆方向に電圧をかける場合、抵抗力を下げると大きな電圧は加えられないことが欠点である。少量の電子注入を前提にしていたのである
自分と異なる事は、絶縁物は多量の電子を注入できることである。と気づいた。
絶縁物を利用すれば、PN接合のダイオードは性能が向上するのではないか?
「PN接合の間に絶縁層をはさむ」独創の閃いた瞬間であった。

現在、交流電流を99%で直流に変換するPINダイオードの誕生である
昭和25年に特許となったPINダイオードが日の目をみたのは、8年後の実物と
39年に開業した東海道新幹線に使用されたことにより普及していくのである。
何故遅れたか? 日本の学界で常識から抜け出せない人間によって理論が認められなかったからであった。


西澤曰く、独創的な発明や開発には4つのものが必要と言う。
実験で定説と異なる現象が現れたときは、定説の方を疑う強い問題意識
新現象がどういうことか考える強い頭
考えた結果得た新説を押し立てていく強い個性
その新説を認めて支持、支援することができる評価者

強い問題意識とは
強い感受性と勇気である。常識や慣例に疑いをもたなければ、「問題」は認識できない。また、研究者は世の中の定説から外れることに、本能的に恐怖を持っている。よって、自分の実験結果の方を定説に合わせてしまう。勇気はそこで必要になる

強い頭とは
賢い頭、回転の早い頭ではない。1つの事を考え抜く集中力である。
教科書を読んで理論を述べる頭ではない。人間が自然を観察しつづけ、そこに法則を見出し、記述するのが学問である。よって、そこには人間の主観と願望が入っている
本に書かれた自然の法則には、恒久的に真理はないのである。
しかし、本の定説は完全に理解しておかなければ、定説の限界を知り得ないことも事実である。

強い個性とは
新説を押し進めていく個性である。企業で言うならば独創的なアイデアを思いついても首を賭けて上役に進言できる、強さと勇気がいるのである。

評価者とは、
独創的なアイデアは支持する人(真価を見抜く人)を作らなければならない
ということである。企業においては前記の強い個性を包容できる上役を育てなければならないということになる。

かつて、若い設計者がオーディオ機器の設計にあたって、オーディオに興味がない上役が、日本語表示が必要だとか、デザインが如何とか、測定上の歪率が悪いとか言って、全く売れないものを作っていた時代があった。
三洋電機のラジカセU4は年寄り上司から売れないとレッテルを貼られた。
しかし、若者に音質とデザインがうけ、大ヒットとなった。
音質とは、測定器で測った性能で、歪、周波数特性、パワーが重要視されていた。それが業界の常識だったのである。
当時、U4の開発課の課長は独創的な発言をしていた。
「店頭ではボリュームを最大にしてお客に聞かせている。測定器なんてどうでも良い、メリハリをきかせれば良い、」この方針に従って、この課の若者はスピーカーを何種類も試作し、年中音楽を聞きながら趣味で仕事をしていたのである。
これが、続く、U4シリーズの爆発的ヒットを生んだのであった。


発想とは!


 
固定観念にとらわれない柔軟な頭
「私は頭が柔軟でないので発想が貧困だ」思っている人は、悲観することは無い。このビジネス講座を読んでいるだけで、すでに柔軟なのである。ただちょっと見方を変えれば良いだけである。
本(雑誌)は読むものと考えずに、薪、枕、包装紙、椅子、なににでもなってしまう、こんな見方をすれば良いだけである。
しかし、薪、枕の基礎知識が無ければ発想はできない。
ヒラメキの鋭い人は感受性が高いばかりでなく、知識も豊富なのである。
感受性が高い人は基礎的な潜在知識のなかから、関連性を導くのが早いだけなのである。
例えば、自分の現在の仕事と関係無いからと言って、会議、講習会に参加、しない人は、新発想は無理である。上役は、講習会などの裏の意味を深く理解し、部下を指導すべきであろう。
幅広い知識があって、そこで集中力を発揮するから発想が生まれることを明記しておくことである。

発想技法はおおむね下記のようにまとめられる。

1) 結合変換型
2) 問題解決型
3) 類似、類推型
4) 連想、空想型
5) 分析再構築型
6) 視点変換型
7) 強制転換型
8) 累積構成変換型

結合変換型
オーソドックスな発明、改革で、既成のものを意識的に組み合わせる方法
企業内の改革によく使用される。「合わせる」「要素を入れ替える」「付け加える」「形を変える」「分ける、加える」「反対、順番を変える」などである。

問題解決型
困ったことを思いだし、理想の姿をイメージしてその差を埋める
理想の商品にたどり着く方法はどんな方法があるのかを推定しながら発想する。設計トラブルの解決に使われることが多い。

類似、類推型
機能、イメージを同様なことから考える。鳥から飛行機が生まれるようなものである
キーワードを考え、連想するものを導き出す方法である。

連想、空想型
非現実的で、空想の中から発想する。これは天賦の才能が必要である。
戦後、漫画の世界で「光線銃」があったが、今レーザーを馬鹿にする人はいない。

分析再構築型
高度な方法である。発想力が無い人が使う方法でもある。
システム的、論理的に進める。データを分析、グループ化して新しい組み合わせを作る。
試行錯誤で時間はかかるが、思いがけないアイデアが得られることもある。
年寄り会社もこの方法で革新できる。

視点変換型
原点にかえって問題を考え直す方法である。
ある機械の機能の設計アイデアが出ない、類似、結合、いろいろ発想したがだめだった。
原点にかえって、何故その機能が必要なのか?を問うたところ、商品の売り方を変えれば済むことだった、と言うような内容である。

強制転換型
あるべき項目を、無くしたり、逆にしてみたり、馬鹿げたことをすることにより発想する。
機械の修理に時間、費用がかかるのでコストダウンできないか?
修理をやめたら?、捨てたら、という発想から、部品をユニット化して安く作り、使い捨てにしてしまう発想が生まれる。

累積構成変換型
企業等で使われている方法である。
ある商品を企画したい時、あらゆる類似商品の企画書を集めてくる。その中から、良いものをリストアップしたり、合わせたりして新しいアイデアを得る方法である。

いずれにしても、現在の企業の維持は発想と行動が重要である。
発想力は才能に左右されるため、才能のある人材を配置するのが望ましいが、それほど人材豊富な会社は無い(見抜けないだけかもしれないが)
よって、ある程度の才能のある人材の採用とその上役の器量が要求されるといえるだろう。